大規模修繕工事新聞22年6月号(No.150)
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共用部分でのインターネットの設備環境をまったく整えていなかったために、新たな予算が必要ということになるからです。 実際に事例マンションは大所帯であったため、設備等の導入や購入に関しても大がかりとなり、この度のイニシャルコストでは数百万円の支出が発生したのです。これは社会的な流れからも、中長期的な視野からも必要な投資と考えられ、いつやるかの問題だけとして、管理組合内では理解を得、合意形成を進められたようでした。 オンラインにおける総会や理事会は、国やマンション管理センターからの情報提供やマンション標準管理規約の改正もあり、事例マンションでも議決の有効性の担保のために管理規約や委員会細則等を見直しております。○管理組合内部の合意 オンライン化のメリットは、参加者が場所を選ばないということです。どこからでも参加できるということを逆手にとり、今回、修繕委員会は委員だけでなく、自宅でWi-Fi環境があれば一般の組合員も自由に視聴だけはできることにしました。 それによって大規模修繕工事の内容について積極的に知ってくださいと、参加の呼びかけを行いました。 この効果は大きく、自由参加者は多くはありませんでしたが、①修繕委員会の姿勢がオープンであることが証明された、②コロナ禍でみんなが閉塞感を抱いているところ、工事をやったらきれいになるんだという希望が持てるようになったのです。 理事会・修繕委員会では「閉塞感の雰囲気打破のために全員参加によるムードの盛り上げが図れた」と話しています。先に控えていた工事説明会や総会でも、「非公開的な密室ではないか」「やっていることがわからない」などといったクレームがひとつも上がらず、ある意味大きな効果があったと言えると思います。 オンラインを活用した大規模修繕工事の効果としては、まず、コロナ禍でも大規模修繕工事の協議が滞りなく進行できます。これは事例マンションでも実証済みです。 次に理事会や総会などの出席率が向上しました。この理由として、ひとつは「安心感」があげられます。理事会、委員会では非接触、非対面の機会が得れられるということで参加のハードルが下がりました。さらに自宅や会社などからでも、接続できれば参加できるので、場所が限定されません。 同様に住民としても、総会や説明会への参加がしやすくなりました。自宅にいても服装でそのまま出られない、子どもがいて手が離せないから総会に出なかったなど、ほんのちょっとした理由で総会等に足が向けられないという住民が実は結構いたようです。そうした人たちも自宅にインターネット環境があれば、事例マンションでは大規模修繕工事に関する説明会や総会を全部オンラインでやったのですが、相対的な数として出席率が上がり、潜在的なニーズにマッチしていたことがわかりました。 もちろん、事例マンション900所帯の中にあっても、理事会や委員会を起点としたコロナ感染の発生はゼロです。 後々に気づいたことでは、「議事内容のデジタル記録化」で、録画モードがあることから、漏れなく記録ができることがわかりました。ペーパーレス化で資料印刷の手間やコストが省け、副次的な効果も出ています。 高齢者からコンピューターについていけないというクレームもありませんでした。むしろ、コロナの拡大を未然に防ぐ対策をしてくれていることで、賛同される高齢者が多くいらっしゃったのが印象的でした。 オンライン化のソフトやアプリは、どれがそれぞれの管理組合にマッチするのか、前例がないためによくわからないところが当初ありました。事例マンションでは1回使用して、2回目から違うものに変えた経緯があります。 他の管理組合においても今後のオンライン化にあたり、戸数や参加人数、会議の所要時間等、また予算的なものであっても、のソフトやアプリが最適なのかよく調べた上で対応したほうがよいのではないかと思います。 施工会社のオンライン化のノウハウも課題です。事例マンションでは、施工会社のプレゼンテーション(金額だけでなく、工事の提案や取り組み姿勢などを総合的に評価する)について、これまでのように集会室に来てプレゼンするのと同じものをオンラインで行った会社は全く見栄えがしませんでした。資料の表現も、会社の会議室でプロジェクターに映したものをオンラインで流すことになると、見ている方は小さくてなんだかわからなくなってしまいます。アプリによっては画面に資料を取り込むことは可能なのですが、オンラインでのノウハウが不足していたとしか言えません。 リアルのプレゼンと、オンラインのプレゼンは資料作りから別物であることがわかりました。施工会社のオンラインについてもノウハウもこれからの課題と言えます。 また、事例マンションでは初期投資で数百万円の支出がありました。光ファイバー導入の後のランニングコストも管理組合内部の合意形成が必要といえます。 しかし、デジタル社会に背を向けて暮らすということはもはやできない時代です。いつかどこかの時点で管理組合がデジタル化、オンライン化に取り組まざるを得ないことは事実と言えます。俯瞰的あるいは中長期的視野としてのデジタル化への投資であると理解してもらうことが大変必要な事項ではないかと考え、課題とさせていただきました。 -5 -

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