大規模修繕工事新聞21年11月号(No.143)
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【事件の概要】 区分所有者Aが共用部分である階段や通路の手すり部分に、管理組合の事前の了承なくペンキを塗布し、他と色合いの異なるものに改変したことから、管理組合が「不法行為を構成する」と主張して、補修費用相当額の損害賠償金162,000円の支払を求めた事案です。 区分所有者Aは「老朽化したマンションの破損を防止するために本件行為を行った」と主張して争いました。マンションは昭和40年代に建築されたものであり、平成29年、30年頃の時点で、経年劣化による鉄部のサビ、壁面の塗装のはがれや汚れが各所に見られる状態だったとされています。 しかし裁判所は「現状の維持を図る行為であっても、特段の緊急性があったことを認めるに足りる的確な証拠はない」ことから、「管理組合の了承なく、これを行うことはできない」とし、不法行為が成立すると判断しました。 そして管理組合主張の額の20%に因果関係を認め、さらに過失相殺(必要とされる修繕を十分に実施していなかったことが不法行為を誘発した要因のひとつである)の法理を類推して2割減じた25,920円を管理組合の損害として認めました。【コメント】「保存行為」とは、物の原状維持を目的とした手入れや修繕行為をいいます。 区分所有法18条1項ただし書きにある「保存行為」は各共有者がすることができると規定しており、この規定からすると、区分所有者Aも自分で保存行為を行うことができるように思えます。しかし、同条2項は「前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない」-7 - と規定しており、本件マンションの管理規約には「共用部分の管理」については管理組合がその責任と負担においてこれを行う旨が規定されていました(標準管理規約にも同様の規定あり)。 ここでいう「共有物の管理」には「保存行為」も含まれるので、管理組合の責任と負担で行うものであり、区分所有者個々が管理組合の了承を得ることなく勝手に保存行為をすることは許されません。 この裁判例でも、上記の保存行為について、区分所有者が管理組合の了承を得ることなく、これを勝手に行うことは違法とされましたが、すべての保存行為が管理組合の了承を得なければ行うことができないというわけではないとも考えられます。 例えば、廊下にゴミが落ちていた場合に、その清掃を行うことは共用部分の保存行為にあたりますが、それまで勝手にやることが許されないということはないでしょう。 結局は管理規約の趣旨に照らして、事案ごとに個別具体的に判断される問題であると考えます。山村行弘(やまむら・ゆきひろ)弁護士平成28年、大空・山村法律事務所を開設。第一東京弁護士会刑事弁護委員、独立行政法人国民生活センター発刊『国民生活』の“暮らしの法律Q&A”( 2010年~ 2017年)、日本経済新聞「ホーム法務Q&A」(2018年1月~)の執筆担当。◆山村弁護士への相談は… 〒100−0012 東京都千代田区日比谷公園1−3 市政会館4階 ☎03−5510−2121 FAX. 03-5510-2131

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