大規模修繕工事新聞21年10月号(No.142)
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2.長期修繕計画に新しい観点価値観を持つこと 一般的な国土交通省のガイドラインに即した長期修繕計画における大規模修繕工事を平たくしたモデルを表①従来型としました。 戸当たり1万円/月の修繕積立金の100世帯のマンションを想定し、12年目の繰越金が8,000万円としました。つまり、築12年・100戸・管理組合資産8,000万円からスタートです。 一般的な現状の大規模修繕工事の概算を戸当たり100万円とすると、大規模修繕工事の費用は1億2,000万円となり、8,000万円から1億2,000万円を引き算すると、途端に4,000万円の赤字になります。 4年後の築16年目に黒字に復帰しますけれども、24年目の大規模修繕工事で再度1,600万円の赤字に転落します。おカネが貯まるスピードと工事をやらなければいけないスピードが、アンバランスになっているという現象が起きているんです。 単純に、貯まっていないのに工事をやるから赤字になることの繰り返しになっていく現象です。 さらに大規模修繕工事のあとに給排水設備工事や、電気設備、エレベーター、玄関ドア・サッシなどの大きな工事が発生する可能性が非常に高くなります。ですから、築24年目に行う大規模修繕工事が、築36年目、築48年目にもやるようになった場合、赤字の状態のまま大規模修繕工事を迎えなきゃならないのでどうしようかという話になるわけです。 この問題を改善するためには、2つのポイントがあります。 次に表②中規模修繕・分散方式をみてください。中規模と分散-9 - 型の修繕計画のモデルです。 表①と比べて累計赤字は解消し、順調に残高は上昇しています。累計収支をみると、赤字はひとつもありません。「同じ建物、同じ条件なのに」です。 表①は貯まりきる前に、大規模修繕で大きなおカネを落とし込んでいたから赤字になっていたので、表②は、「貯まりきるまで引っ張れるのなら引っ張る」ということです。 それによって、単年度に大きなおカネを落とし込んで、組合資産を割り込むような計画になっていないので、赤字が起きないという現象になっています。 また、修繕を分散させので、単年度に投入する額が当然減るわけです。長周期的に引っ張れるだけ引っ張って、その間におカネを貯めて、かつやらなければいけない優先順位の手前の工¥事は、そんなに大きなおカネを使わないので、基本的に組合資産が減らないようにみえるのです。実際に赤字そのものは出てきません。 建物の診断をするなどして、本当に工事が必要になっているかどうか、それをまず把握することです。足場をかけて大規模修繕工事をやるような状況かということが大事なんですね。その判断をしていくことがすごく大事だと思います。 大きなポイントはこの2つです。まずはできるだけ長い周期で考える。かつその手前で分散させて、単年度の大きなお金を投入することを避けるということです。 たったこの2つによって、今まで丸赤字だった長期修繕計画が、場合によっては1銭も値上げしないでバランスできるようになるということが、実際起きているのです。3.大規模修繕から中規模・分散方式工事にすることの意義 以上のことから大規模修繕工事を長周期化させること、単年度に工事を集約させない分散型とすること、この2点で管理組合の財政が改善することが、間違いなく可能となります。 実際のこの手法で最低限の値上げ、物件によっては値上げせずに修繕計画を進めることが可能となったマンションは多数あります。逆に値上げに取り組まなければならなかったケースは、修繕積立金の設定があまりに低すぎたとか、割高な工事に費用をかけすぎていたなどで、残高があまりに足りなったケースです。 全建センターでは、トータルマネジメント方式やセカンドオピニオン制度とともに、長期的な建物の維持管理体制の構築を提案しています。

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