大規模修繕工事新聞22年11月号(No.155)
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①価格転嫁 まず、ロシアによるウクライナ侵攻に起因する石油等の世界的エネルギー不足から生じるそのコストの上昇が原因のひとつとして考えられます。 石油等のエネルギー価格の上昇については、建設資材の製造や加工コスト、輸送コストを押し上げているところとなっています。 防水材料であれば、シートや塗料も化学製品であるので、加工・製造が必要です。工場を稼働させる必要があり、工場を稼働させるにしても費用がかかることから、材料の原資そのものが値上がっていると同時に加工する費用も上がり、さらには輸送するコストも上がっているので、当然のことながらコストが押し上げられているのです。 帝国データバンクが発表した企業の価格転嫁の動向アンケート(2022年6月)によると、「建材・家具、窯業・土石製品卸売」は転嫁率が64.5%であり、エネルギー不足から来る各種コストの上昇を販売価格に転嫁させている割合が高い業種の筆頭に上げられています。 従って、建設資材については価格転嫁が進んでいることから、工事費が上昇しているひとつとの原因となるわけです。②為替レートの円安基調 2点目は、超低金利を原因とした為替レートの円安基調です。石油等のエネルギーや建築資材等の輸入品のコスト押し上げる要因となっています。 みずほリサーチ&テクノロジーズが作成したデータから引用しますと、「石油・石炭製品」における輸入コストが非常に嵩んでいるということがわかります。すなわり為替レートにおける円安基調がさらに原価の上昇を促している状況であるということです。 もともと建設資材等が高い、価格転嫁が進んで高い、さらにそれらを輸入するときにも為替レートによって高くなっていると、このように2重、3重に値上がりする要素が発生しているのです。③建設作業従事者の労務不足 3点目の労務不足について、もともと建設作業従事者の高齢化は進行していました。また、若年層についての新規入職者は増えずに慢性的な労務不足になっています。 現実として管理組合のみなさんにしっかりご理解いただきたいのですが、特に大規模修繕工事の市場について、どの人が労務を支えていたかというと、市場をわずかに補っていたのが外国人技能実習生です。その実習生が現場の最前線を支えていたというのが実状であります。 この状況が3年前からの新型コロナのまん延により一変しました。外国人技能実習生についての新規の受け入れが滞ったということがあり、労務不足をわずかに補う役目の実習生も枯渇したのです。このような状況も労務費高騰に拍車をかけています。 国土交通省資料「高齢者の大量離職の見通し」によると、10年後には大半が引退されるであろう「65歳以上」が42.4万人である一方、「20 ~ 24歳」13.9万人、「25 ~ 29歳」19.2万人で、30歳未満の割合が極端に少なく、若年入職者の確保・育成が喫緊の課題とされています。◇ 以上のような状況について、経済学では「典型的なコストプッシュ型インフレ」と呼ぶそうです。原価が上がったことにより価格転嫁を行う、逆にいえば「正常な経済状況」であることを管理組合としても冷静に受け止めなければならない、重要な点だということを理解してほしいと思います。 一般社団法人全国建物調査診断センターが2カ月ごとに主催している恒例管理組合オンラインセミナーの一部を紙上採録します。今回は8月28日にYou Tubeで公開した第59回セミナー「大規模修繕工事費の高騰についてその現状と解説」の様子を取り上げます。 なお、これまでのセミナーはYou Tubeにより動画配信を行っています。全建情報図書館でもセミナーの内容等を収録した書籍を発行しています。全建センターのホームページから検索してください。-4 -

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